FEATURE

『DP PAPER』ものがたり(後編)
生まれ故郷に足を踏み入れる

工業製品であっても、脈々と受け継がれるアナログなものづくりの世界

寒い冬の季節。数年ぶりの豪雪の中、またとない晴れ間に恵まれたある日のこと。
あらためて、『DP PAPER』開発から数年を経た今、その生まれ故郷に足を踏み入れる。

自然の恵み「水」

本革もそうだが紙の製造にも絶対的に水という自然の恵みが必要で、しかもそれは綺麗に越したことはない。製品時には乾き切った『DP PAPER』にその製造工程でたっぷり含まれる水の源流はアルプスの山々。遥か遠くは列島を横断する千曲川にもつながる信濃川がこの紙の大切な水資源となる。長い長い旅を経て流れ着いた広大な川面を眺めているとそれはまるで紙が静かに波打っているかのようにも見えてくるから不思議だ。そう、美しい水を運んできてくれるこの日本一の河川こそが『DP PAPER』の故郷。
製紙工場の横をどっしりと雄大に漂う The Shinano River
その豊富な水量と水質は何にも代えがたく、
私たちが本物のリフィルペーパーを創るにあたって少しも不足はなかった——

リフィルとしての最良な品質を求めて

水に加えて、世界各地から集められた木材チップが原料のパルプを使って作られる紙。私たち開発者はもちろん、実際に書く人が求めるリフィルとしての最良な品質を保持するには?と思案と実験を重ねた先に『DP PAPER』が生まれたわけだが、その秘密は木材の種類にもある。

薄くて、丈夫で、滑らかで、裏抜けしにくくて・・・といった欲張りな条件を満たす紙は実は世の中にはそう多くない。そんなわがままな紙づくりは、その繊維が長い針葉樹のパルプ配分を多くすることから始まった。
ただ、これを単純に多くしてしまえというわけにはいかないのが紙づくりのとても難しいところ。少し専門的な話になるが、繊維長が長い針葉樹のパルプは抄紙の前段階である叩解(パルプを粉々にする工程)を経ても、比較的長めの繊維が残る。それを最終材料として抄紙を行うと、繊維同士の絡みが密接になり、丈夫で、さらに滑らかな紙面を作れるというわけだが、繊維同士のつまり具合が密になるため筆記具のインクの適度な浸透が得られず、筆記後もインクが乾きにくくなってしまうのだ。
ここからは、針葉樹はもちろん比較的繊維長が短い広葉樹パルプとの配合バランスをとる試行錯誤の連続。どこを『DP PAPER』の基準とするか、実に細かいテストが続くことになった。薄くて、軽くて、丈夫で、裏抜けしなくて、乾きやすくて・・・そんなシステム手帳のための、書く人のための本物の紙を目指して。

受け継がれる職人の技

ひとたびレシピが決まったら——
パルプを叩解し、抄紙し、乾燥し、巻上げて、と一連の工程はあっという間。そう、洋紙の量産光景は実にスピーディーで巨大。なんといっても、みなさんが消費する紙の半年分とかを一気に抄紙してしまうわけだから。

製造途中でストップすることができない抄紙工程なだけに、その手前の段取りと品質チェックへの念の入用は計り知れない。今でこそ安定した品質を誇る『DP PAPER』も実は追加抄造のたびにぎりぎりの品質チェックは欠かせないのだ。
そして抄紙ロットごとの筆記テストももちろん今でも大切な時間。それは確かに工業製品であっても、納得いく“一枚”を作り上げるために、工程の端々に必要な職人の眼と手の感覚がしっかり宿り、実はアナログなものづくりの世界が和紙作りと同じように脈々と受け継がれていた。
自然の恵み、そしてこれだけ多くの人と技に支えられ、ようやく形となったリフィル一枚一枚を眺める度にじんわりと、感慨深い気持ちになるのは当然だ。
あのパルプがこの一枚の大きな紙に変わった様は誇らしい。積み上げられた紙の束の厚さだけ、これまでの工程と携わった職人たちに想いを馳せる。そして、光に反射した、ほんのりクリームがかった紙の淡い色合いは目に優しく、筆欲を掻き立てる。
たくさんのストーリーをぎゅっと凝縮したリング手帳のためのオリジナルリフィルペーパー『DP PAPER』
書く人の創造の卵がこの一枚の紙上で舞い踊らんことを願ってやまない——